大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和63年(行ツ)60号 判決

上告人

田代實

右訴訟代理人弁護士

竹中敏彦

被上告人

護藤土地改良区

右代表者理事長

西田正己

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一上告代理人竹中敏彦の上告理由第一点について

被上告人が上告人に対し第一審判決添付別紙(一)の「従前の土地」欄記載の土地に対する換地として同別紙の「換地」欄記載の土地を指定する処分(以下「本件換地処分」という。)をしたことは、第一審以来当事者間に争いがない事実であり、そもそも被上告人が従前の土地全体に対し換地全体を指定した旨の主張をしたことがないことは、本件記録上明らかである。したがって、所論判断逸脱の主張は、前提を欠く。もっとも、被上告人は、本件換地処分の適法性に関し、第一審においては上告人に対する従前の土地全体とこれに対する換地全体との間に照応関係が認められるので本件換地処分は適法であると主張していたが、原審において各個の従前の土地とこれに対する換地との間にもそれぞれ照応関係が認められる旨主張するに至った。そこで、被上告人の主張の変更は許されない旨の上告人の主張が、本件換地処分の適法性に関する被上告人の右主張の変更をも対象としているものとして考えるのに、原審が被上告人の右新たな主張を事実摘示していないことは原判決上明らかであるから、上告人の主張に対し原審が判断を示さなかったことになるが、それは判決に影響を及ぼすものではない。結局、所論判断逸脱の主張は前提を欠くか、判決に影響を及ぼさないものであり、論旨は採用することができない。

二同第二点の一について

被上告人の主張する照応関係は、同一所有者に対する従前の土地全体と換地全体とが総合的にみて照応していればよいとするものであり、所有者を異にする場合にも総合的に観察すればよいとするものではないところ、原判決が従前の土地を三つに分類したのは正に所有者が異なるためであり、同一所有者については従前の土地全体と換地全体とを総合的に比較して照応関係を判断しているのであって、原判決の右判断は被上告人の主張と異なるものではなく、何ら弁論主義に違反するものではない。論旨は採用することができない。

三同第二点の三及び五について

土地改良法五三条一項二号の照応関係は、土地改良事業の目的に照らし、従前の土地に所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限がある場合でない限り、同一所有者に対する従前の土地全体と換地全体とを総合的にみてその間に認められれば足りるとする原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

四同第二点の四及び第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤哲郎 裁判官角田禮次郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ツ谷巖 裁判官大堀誠一)

上告代理人竹中敏彦の上告理由

第一点 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な事項について判断を遺脱した違法がある。

一 原判決は、被上告人(一審被告、控訴人)の、控訴審段階における主張の重大な変更は許されないとする上告人(一審原告、被控訴人)の主張に対する判断を全くしていない。

二1 本件換地処分について、被上告人は、一審においては、上告人の従前地全体に対し、換地全体を実質的に対応させて換地した旨、一貫して、主張してきたものである。

その主張の仕方は、執拗を極めていた。即ち本件換地処分は、一見して、一審判決添付別表(一)の従前地欄と換地欄をつらぬく横線で仕分られたものを対応させての指定とみえるところ、被上告人は、これを一貫して、執拗なまでに否定し続けてきたのである。

2 本件換地を、現地に指導した石坂幸雄もその旨証言している(昭和五七年一〇月四日、一二八項ないし一三〇項)。

3 右の如き、主張、立証にもとづき、一審判決は、上告人に対する本件換地処分は、「従前地全体」に対し、「換地全体」を指定したと、正当に判断したものである。そこには何らの「混乱」も「錯誤」も存しない。

現実に換地処分をした者、それを指導した者および、彼等から詳細な事情聴取をした代理人によって主張、立証されたことをもとに正当に判断したのである。

4 しかるに、一審判決において敗訴するや、突如被上告人は、一審における主張を豹変させ、当初は仮定的に、やがてはもっぱら中心に、前述別表(一)の横線の仕切り内の従前地を同仕切り内の換地に指定したと主張するに至った。

上告人は、かかる百八〇度の主張の変更は許されない旨主張し、この点に関する控訴審の判断をあおいだにもかかわらず、ついに控訴審は、この判断をせず、一審判決を取り消すに至った。

三 本件換地処分が、一審判決の判断した如く、従前地全体に対して換地全体が指定されたものか、控訴審判決の判断の如く、前記別紙(一)の従前地欄と換地欄を横線で仕切った部分を対応させたものであるかは、重大な争点である。

控訴審判決も、一審「判決別紙1中にあるように、従前の土地数筆に対して数筆の換地を定めることは……許されない」としているから、もし、本件の換地の指定が従前地の全体に対してなされたものであるなら、本件換地処分は、当然違法として取消(控訴棄却の判決)されたであろう。

その意味において、重大な争点である本件換地処分にかかる被上告人の主張の百八〇度の転換を許容するか否かおよびその理由については、明確に判断がなされねばならないところ、その判断を遺脱した原審判決には、民事訴訟法第三九五条一項六号の違背がある。

第二点 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な法令違反がある。

一 原判決は、本件換地処分について左記の如く、全く独自の照応関係を展開している。

「本件換地処分については、(1)従前の土地一八〇七番とこれに対する換地である一七三一番二との間、(2)従前の土地一四四八番ないし一四五一番とこれに対する換地である一四三〇番との間、(3)従前の土地から右(1)及び(2)記載のものを除くその余の従前の土地全部と換地から右(1)及び(2)記載のものを除くその余の換地全部との間に、それぞれ総合的に見て照応関係が認められれば足りるものというべきである。」

(原判決八丁裏)

しかし、これは、当事者の主張する照応関係とは全く反するものである点において、民事訴訟の原則である弁論主義に違反する(民事訴訟法第一九一条、同第二五七条違反)。

即ち、被上告人は、従前地全体と換地全体との照応関係をくりかえし主張しているのである。

また、一審判決添付別紙1、2記載の対応関係も主張している。予備的には、別紙(一)の対応関係の主張をしている(それが許されぬこと前述の通りである)しかるに、原判決は、当事者の主張にも存しない独自の照応関――係を展開させ、肝心な右被上告人の照応関係についての判断を遺脱している。この点は、民事訴訟法第三九五条一項六号違反となる。

(二―欠番)

三 同時に、右のような独自の対応関係は、換地処分をした担当者さえもしていなかったものであり、まさに通常人にとって、照応関係の判断を著しく困難にならしめるものにほかならず、土地改良法第五三条一項二号の解釈を誤ったものである。

四 さらに原判決は、本件土地改良事業における集団化率を四七パーセントと認定し、これに対する上告人の集団化率を二五パーセントと判断している。

通常の約五〇パーセントにすぎない集団化率であり、この点からみても、上告人に対する集団化率が不当な不利益を受けたものであることが明らかである。しかも、集団化率を検討する場合には、集団化された土地間の距離をも検討される必要があり、上告人は、換地の四団地が、散り散りに換地されていることをも主張・立証したにも拘らず、原判決は、その点に関する判断も欠落させている。

以上の原判決の判断は、土地改良法第一条一項に違反するものである。

五 原判決は、上告人の換地、菰堀一五六六が二九二平方メートルであることに着目しながら、その従前地と自ら判断している筈の戸崎二〇六三が四九五平方メートルであり、その減歩率は四一パーセントを超えるとの上告人の主張については判断を欠落させている。

単に苗代田に関する基本原則からやむなしとする一面的判断をしている(一四丁表末より裏にかけて)。

甲三一号証一二頁にあるごとく、減歩率二割を越える場合は問題なのであって、従前地と換地を別紙(一)に即して判断するという原審の判断を貫くならば、ここでも、右菰堀一五六六と戸崎二〇六三とを対比し、その著しい減歩率を論じるのでなければ、まさに民事訴訟法第三九五条一項六号の理由齟齬であるといわざるをえない。

同時に土地改良法第五三条一項二号の照応の原則に関する判断をも誤ったものである。

第三点 原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな採証法上の違反がある。

原判決は、理由五(一四丁裏より)において本件換地処分が公平の原則に反しているか否かを判断している。

本件換地にあたって換地委員をつとめた清田一族に対する著しい有利な換地だけをとりあげても、甲三、四号証、検証結果から十分判明する。

しかるに原判決は、「控訴人の役員が、その地位を利用して……一般組合員に比し有利に集団化をはかったことを認めるに足りる的確な証拠はない」とする(一五丁表)。漬田農事に関しては、一応、上告人の主張を認める判断をしつつ、「もともと換地された字戸崎に他の農家に比べてきわめて面積の広い団地化した従前の土地を所有していた」として「不公平な換地が行われたと推認することはでき」ないとしている。きわめて皮相的な判断であり、とても公平な採証法に即した判断とはいえない(上告人としては、公平原則に反するさらに多くの立証(本件換地に伴う汚職)するべく、弁論再開の申立をしたが、それも認められなかったものである。)

以上いずれの点からしても原判決は取消を免れない。

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